理論と実践


潜在運動系とは?

潜在運動系とは、人体に潜在する脳身体システムです。これが人体の根底にあり、人間の運動を支えていると考えています。簡単に言うと、動物時代の脳と身体のつながりを潜在運動系と言います。

 

人間に進化するまでに、脳も身体にも長い変化の歴史があります。

 

例えば、脳は三階建の増築された構造になっています。

人間の脳は一番上の三階に位置し、その下には哺乳類の脳、爬虫類の脳があります。しかし、その動物脳たちは、人間脳の言うことをなかなか聞いてくれません。

 

人間の筋肉も同様です。

人体の表層にある筋肉は意識的に動かしやすいですが、深層にある筋肉は動かし難いです。しかし、動物はこれらの筋肉を駆使し、人間にはない高いパフォーマンスを発揮しています。

 

この深部にある動物脳と動物筋をつないだのが潜在運動系です。


双方向性アプローチ

なぜ、このように動物的な脳と筋肉をつなぐ必要があるのかと言うと、そうすることで双方向のアプローチができるからです。

 

まず、脳は硬い頭蓋骨の中にあるので触れることはできませんので、脳がどのようになっているかがわかりません。そこで、身体から脳をアプローチすることが有効な手段となります。そのアプローチの一つが、動物的な運動や、赤ちゃんの運動に見られる原始反射です。また、呼吸も動物脳が行っていますので、様々な動物脳へのアプローチが可能となります。

 

今度は逆に、脳から身体へのアプローチです。

そこで用いるのが、

 

①意識

②イメージ

③感覚

 

の三つの要素です。

つまり、運動にメンタルの要素を用いると言うことです。

これらの意識・イメージ・感覚の三要素で、動物的な身体にアプローチするのです。

そうすることで、運動が苦手で体力のない方でも、運動パフォーマンスを高めることができる、と考えています。

 


脳の休息とストレスの低減

私たち人間は、文明社会を作り出し、便利さを得ました。

しかし、自然界から遠去かることになり、人間のシステムばかりを使ってしまうため、常に人間脳は働き続け、休息できない状態になってしまっていると考えられます。その人間のシステムに休息を与え、動物のシステムを活性化させるのが潜在運動系の実践です。

 

逆に動物脳は使わないため、機能が低下してしまうと考えられます。

例えば、爬虫類の脳と言われる脳幹の視床下部には恒常性維持機能という重要な機能があります。これは生体を一定の状態に保つ機能のことで、自然治癒力や生命力と言ってもいいでしょう。これがしっかりと機能するには、動物のシステムを活性化させることが重要になります。

 

この動物のシステムを働かせるには、深いリラクセーションが必要です。

しかし、そのリラクセーションがなかなかできない人も多いため、当会では潜在運動系理論に基づくリラクセーション法の研究と提供をしています。


本当のリラクセーションとは?

当会の考えるリラクセーションとは、人間のシステムが休息し、動物のシステムが活性化している状態です。身体で言うと、表在の筋肉は弛緩していますが、深層筋はしっかりと働いている状態を指します。深層筋、インナーマッスルは軸を形成し、関節を正しい位置にし、正しい姿勢維持を形成します。これがリラクセーションを促します。

 

外の筋肉が緊張すると、軸が形成されないため、効率が悪く、負担のかかる動きとなってしまいます。そして、それが毎日の生活で積み重なると、様々な生活活動に支障を来たすようになるのではないか、と考えられます。その毎日蓄積する生活の負荷を軽減する意味でも、リラクセーションは重要な意味を持つと考えられます。

 

こうしたことから、ユルユルのダラダラな状態になっているのは、本当の意味でのリラクセーション状態とは言えない、ということです。本当の意味でのリラクセーションは、身体が重心線上にあり、体表の筋肉は弛緩し、深層筋が働いている「外柔内剛」の状態なのです。そして、この時、脳は恐らく、人間脳は休息し、動物脳が活性化している状態ではないか、と考えられるのです。これが潜在運動系理論から見るリラクセーションです。


潜在運動系の実践

潜在運動系のリラクセーション状態を客観的に確認する場合、腕を肩の位置まで挙上し、肩口の筋肉である三角筋が弛緩しているかどうかをチェックします。

腕を挙上するには肩口の筋肉である三角筋が緊張するのですが、肩のインナーマッスルが働くと三角筋は一切緊張しません。これは2005年頃、私が大学の研究室でバイオメカニクスの専門家と実験したのですが、やはり筋電図には三角筋の反応はありませんでした※1。

 

通常、アウターマッスルが主導筋であり、インナーマッスル※2が補助筋だと言われます。しかし、生命の本質から見ると、進化上、アウターマッスルが後で発達するため、インナーマッスル がまずベースとして働くのが自然であると考えます。アウターマッスルは、緊急時に働く筋肉であり、アウターマッスルこそ補助的であると考えるのです。

 

運動レベルで見ると、インナーマッスルが働き、軸を形成するのが先で、アウターマッスルによるパワーの発揮は後と言うのが正しい身体の使い方だと言えます。このように軸を形成してからパワーを発揮すれば、スポーツのパフォーマンスも高くなり、安全性も確保できるのではないかと考えられます。

 

当会では、こうした身体の上手な使い方のコツを、潜在運動系の実践を通じて学んでいきます。

 

※1実験時は数kgのダンベルを持って腕を挙上しても、筋電図に三角筋の反応はでませんでした

※2インナーマッスル とは正式な解剖学用語ではありません。当会では、比較的、深層部にある特定の筋肉をインナーマッスル と表現しています。


生活の中で楽にできるメソッドの開発

潜在運動系メソッドは、体力のない方でもできる内容となっています。つまり、身体への負荷はとても軽いものです。それを前提で、リラクセーションしつつ、本質的な身体の使い方を学習できる内容の提供を目指しています。

 

また、生活における立つ・座る・歩く・物を持つなどの基本動作を学ぶため、日常生活を通じてトレーニングする事上磨練を念頭に置いています。特に、忙しい方は、なかなかトレーニング時間をつくることができずに、良いトレーニングでも続かないということがあります。ですから、潜在運動系メソッドの目指すのは、日常生活のトレニーング化です。

 

潜在運動系メソッドを生活に取り入れることで、その人の日々の生活が快適になり、より豊かな人生になることを願っています。