三系概論(顕在系・潜在系・統合系)

人間の運動機能は、顕在運動系、潜在運動系、そしてその二つを統合する統合運動系という、三つの重要な要素で構成されています。この概論では、これら三つのシステムがどのように相互作用し、我々の身体機能とパフォーマンスに影響を与えるか、また、これらの理解が我々の健康、能力開発、そして日々の生活にどのように利用できるかについて詳細に探求していきます。


顕在運動と顕在運動系

【顕在運動】

顕在運動とは、意識的にコントロールし、意図的に行う運動のことを指します。たとえば、手を振る、歩く、筆記具を握るなど、日常生活で頻繁に行う行動は顕在運動の一部です。これらの運動は目的を持ち、個々の動作が意識的に計画され、制御されます。

 

【顕在運動系】

一方、顕在運動系とは、そのような顕在運動を支える神経筋肉系のネットワークを指します。大脳新皮質と、その制御下にあるアウターマッスル(体表部の筋肉)が主に関与します。大脳新皮質は運動の計画、開始、制御を担当し、アウターマッスルはその指示に従って具体的な動作を実行します。

 

顕在運動系は、意識的な運動制御と精密な動作を可能にする一方で、高度な意識的制御を必要とします。これに対して、潜在運動系は無意識に、反射的に動作し、急な状況変化に対する迅速な反応を可能にします。これら二つのシステムは、身体の動きを全体としてコーディネートし、適応的に動作するために相互に作用します。

 

 


潜在運動と潜在運動系

【潜在運動概論】

潜在運動は無意識運動の一種で、体の自動的な反射やバランス維持などの運動を指します。例えば、後ろに転びそうになったとき、手が自動的に前に出てバランスを取るのは、無意識的な反射運動であり、これを潜在運動と言います。普段の意識的な運動とは異なり、緊急時や突発的な状況下でこれらの無意識的な運動が作動します。

 

潜在運動は、その名の通り、通常の意識的な運動の背後に「潜在」しています。これは脳幹が制御する反射動作で、主に体の姿勢やバランスを維持するためのインナーマッスルが関与します。この脳幹は大脳新皮質の下に位置し、無意識的な動作を制御する「潜在脳」の一部を構成しています。同様に、インナーマッスルもアウターマッスルの下に位置し、「潜在筋」とも言えます。この脳幹とインナーマッスルは無意識的に連携して動作し、これらが組み合わさった概念が「潜在運動系」です。

 

【潜在能力】

"火事場の馬鹿力"のような緊急時の特異な力は、潜在能力として知られています。これは人間の潜在運動系が作動する結果で、通常はこの潜在運動系は緊急時のみに反応します。しかし、特定のトレーニングを行うことで、この潜在運動系を日常的に意識的に活用することが可能になります。

例えば、足を踏ん張って立つことで一時的に安定感を得られるかもしれませんが、これはアウターマッスルの緊張と大脳新皮質の活動を必要とする顕在運動系に頼っている状態で、潜在運動系の活性化にはつながりません。

 

逆に潜在運動系を活性化させるためには、歩幅を狭くし、足の親指の付け根(拇指丘)で立ち、わざと不安定な状態を作り出すことが効果的です。この揺らぎは脳幹運動の反応を刺激し、足を踏ん張らず、筋肉をリラックスさせることで潜在運動系を引き出すことができます。

この概念をスポーツの世界に適用すると、バッターボックスでバッターが揺らぐのは、潜在運動系を活性化させ、最大のパフォーマンスを引き出そうとする試みと解釈できます。

 

【定義】

・潜在運動の定義

潜在運動とは、日常の活動や意識的な運動では通常は活動しない、しかし特定の状況下、例えば危険な状況や緊急時に自動的に反応する無意識の動きのことを指します。これは、バランスを崩した時に無意識的に手を前に出して自身を守る動作などが具体的な例として挙げられます。

 

・潜在運動系の定義

一方、潜在運動系とは、そのような潜在運動を生み出す神経筋肉系のネットワークのことを指します。これは脳幹とそれに連動するインナーマッスルが主に関与しています。このシステムは通常は静かに待機していますが、必要な時には瞬時に反応して身体を保護します。

 

潜在運動系は通常は無意識に作動しますが、特定のトレーニングを通じて意識的に活用することも可能とされています。これにより、普段は利用できない潜在的な能力を引き出し、身体のパフォーマンスを向上させることが可能となります。

 

 

 


統合運動と統合運動系

統合運動:

統合運動は、インナーマッスル(体の深部の筋肉)とアウターマッスル(体の表面の筋肉)が協力し、バランスよく動作する運動のことを指します。この統合された動きによって、身体は効率的に、そして安全に動くことができます。

  • インナーマッスル: これらの筋肉は主に体の中心部に位置し、私たちの姿勢やバランスを維持する役割を持っています。

  • アウターマッスル: これらの筋肉は大きな動きや力を出す際に活動する筋肉で、例えば走る、ジャンプするなどの動作に関与します。

統合運動は、これらの筋肉群がうまく協力することで、効率的な動きやスポーツパフォーマンス、怪我の予防などが期待されます。

 

統合運動系:

統合運動系は、統合運動の背後にある、脳と筋肉の連携を指す概念です。具体的には、顕在運動系と潜在運動系の連携として考えられます。

  • 顕在運動系: 意識的な動きや思考を担当する大脳新皮質と、アウターマッスルとの連携。目的意識をもって筋肉を動かす動作や技術的な動作の習得に関与します。

  • 潜在運動系: 基本的な反射や無意識の下での動きを担当する大脳辺縁系・脳幹と、インナーマッスルとの連携。日常生活での基本的な動作や緊急の反応、バランスを保つための動きなどに関与しています。

統合運動系の理論は、これらのシステムがうまく連携することで、人間の動きが最も自然で効率的になるという考えに基づいています。このアプローチは、リハビリテーションやトレーニング、パフォーマンス向上のための戦略として非常に有益であると考えられます。

 

【脳と統合運動】

統合運動において、大脳新皮質(一般的に「高次脳機能」と関連している部分)と、より原始的な機能を有する大脳辺縁系・脳幹が、協調して活動すると考えられています。この相互作用に基づき、統合運動系とは脳と筋肉の連携を指す概念であり、特に顕在運動系(大脳新皮質とアウターマッスルの連携)と潜在運動系(大脳辺縁系・脳幹とインナーマッスルの連携)の統合として考えられる。統合運動を行っている際の心理状態は、集中し、同時にリラックスした状態、すなわち「無心」の状態に近いとされ、これはデフォルトモードネットワークが活発になる状態と関連している可能性がある。