筋出力順序理論 (MOST)と潜在運動系の関係

筋出力順序理論(Muscle Order of Strength Theory、MOST)と潜在運動系は、人間の身体が動くメカニズムを理解する上で鍵となる概念です。筋出力順序理論(MOST)は、筋肉が動きを生成する際の特定の順序やパターンに関する理論であり、身体の動きがどのように最適化されているかを説明します。一方、潜在運動系は、私たちが意識的に考えることなく行う基本的な動きや反射を制御するシステムを指します。

 

これらのコンセプトは密接に関連しています。潜在運動系は、筋肉の活動を調整し、反射や無意識の動きを制御する際に、筋出力順序理論に基づく筋肉の働きを最適化します。要するに、潜在運動系が私たちの動きの「自動操縦」を担当しているとすれば、筋出力順序理論はその「自動操縦」がどのように機能するかの理論的背景を提供するものと言えます。

 

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筋出力順序理論 (MOST=Muscle Output Sequencing Theory)

効率的かつ低負荷で質の高い運動を実現するためには、身体の「軸(アクシス)」の確立が重要です。この軸の形成に関与するのは「インナーマッスル」です。特に、肩と腕の連結部における軸の役割は、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋という四つの筋肉(ローテーターカフ)によって担われています。これらの筋肉が均等に機能することで、適切な回旋運動と軸の確立が実現されます。しかしながら、アウターマッスルが過緊張すると、この軸の安定性が失われ、非効率的な動きとなりやすくなります。具体的に、三角筋が過緊張すると、軸が不安定となり、肩への不要な負荷が生じることがあり、これが「インピンジメント症候群」の一因とされています。

 

潜在運動系のトレーニングにおいては、三角筋の適切なリラクセーションが求められます。この状態で腕を外転させる際には、棘上筋や棘下筋の上部が中心的に機能します。したがって、初めにインナーマッスルを効率よく動かすトレーニングが重要とされます。

 

インナーマッスルが確立した軸を基盤として、その後アウターマッスルの力を上手く活用することで、安全かつ強力なパフォーマンスが期待できます。しかし、アウターマッスルのトレーニングを過度に優先すると、筋肉のバランスが崩れ、怪我のリスクが高まる可能性がある。

 

このように、まずインナーマッスルによって軸を形成し、その後アウターマッスルの力を活用するという順序性を、「筋出力順序理論(MOST)」と名付けています。生物学的な観点からも、進化の初期段階でインナーマッスルが発達し、その後アウターマッスルが発達したとされています。この自然の順序に基づいて筋肉を動かすことが、MOSTの考え方の根底にあります。多くの動物、例えば犬や馬も、回旋運動を主体とする動きが目立ちます※。これは、インナーマッスルによる動作であり、この回旋運動を基盤として、アウターマッスルによる直線的な動きが追加されるという流れが、多くの生物に共通して見られます。


※犬や馬の動きには、回旋運動が特徴的に見られます。犬が水を振り払うときや、馬が蹄を地面に打ち付ける際には、この回旋運動が中心的に働いています。これは、動物が自らの身体を効率よく動かし、外部の刺激や環境の変化に対応するための本能的な動きと言えます。一方、ストレス過多の現代人は日常の生活や仕事の影響で筋肉が凝り固まっており、このような高度な回旋運動を容易には行えません。しかし、潜在運動系の観点から考えると、人間の体にもこれと同等の高パフォーマンスを発揮する可能性が理論上は潜在していると考えられます。

 


アクシス運動と潜在運動系

潜在運動系は身体の深層部に位置する筋肉群や神経系の働きを基にした運動の体系です。この体系を最大限に活用するためには、まず「アクシス運動」の重要性を理解し、そのアクシスを正確に意識、イメージするステップが必要です。

 

この過程は「意識→イメージ→感覚」という段階を踏むことで、徐々にアクシス感覚を形成していきます。このアクシス感覚がしっかりと身につくと、それを基盤に運動を行うことができます。

 

一方、顕在運動系は意識的な動きや筋肉の使い方に関連しています。潜在運動系のトレーニングの初期段階では、顕在運動系の力を借りて意識やイメージを形成しますが、徐々にそれを減少させ、潜在運動系のアクシス感覚を優位にすることで、より効率的かつ自然な運動を実現します。

 

【アクシス運動の定義】

アクシス運動(Axis Movement)は、身体の特定の軸を中心に行われる動きや運動を指します。この軸は、身体のバランスや安定性を保持するための基盤となり、正確な動きや力の伝達をサポートします。

 

アクシス運動は、特にインナーマッスルの働きと関連が深く、これらの筋肉が正しく機能することで、身体の軸が安定し、効率的で均整のとれた動きが可能となります。例として、腰や腹部を中心にしたトランクの動き、肩の軸を中心とした上肢の動きなどがあります。

 

このアクシス運動の理解と実践は、身体の負担を最小限にしながら、高いパフォーマンスを出すための基本となります。運動やスポーツ、日常生活の動きにおいても、適切なアクシスを意識し、それを中心に動くことで、より安全かつ効率的な動きを達成することができます。

 

 

 


アクシス運動と潜在運動系

アクシス運動は、潜在運動系の一要素として、私たちの身体が持つ基本的で本能的な動きや反射に深く関わっています。潜在運動系の動作や制御は、直接的な意識の下ではなく、動物脳に由来するものです。この背景には、軸=重心線と脳幹の関係性があります。

 

人の身体が直立歩行を実現する上で、平衡感覚が欠かせない要素であります。平衡感覚は、身体の各部位と脳をつなぐ情報のやり取りを通じて、私たちが重力に対抗して立つことを可能にします。この平衡感覚の中心に位置するのが、脳幹です。脳幹は、内耳からの平衡情報や目、筋肉、関節からの情報を受け取り、それらを統合して私たちの姿勢や動きを制御します。

 

また、インナーマッスルは、この軸=重心線を形成し、身体のバランスを保つためのサポートを提供します。これは、潜在運動系としての基本的な動きや反射の中で、身体の中心線を維持する役割を果たします。

 

つまり、アクシス運動は、潜在運動系の中で、脳幹やインナーマッスルとの連携を通じて、軸=重心線を基準とした身体の動きやバランスを実現しているのです。この動きは、生命を維持するための基本的な機能として、私たちの進化の中で培われてきたものであり、アクシス運動はその一部として、私たちの日常の動作や活動においてもその重要性を発揮しています。

 

【潜在運動系と人間の平衡感覚:軸、脳幹、そしてインナーマッスルの役割】

 

平衡感覚は、人間が身体を立てて直立歩行をする上で非常に重要な役割を果たします。この平衡感覚は、重力に対して身体を安定させるための情報を脳に提供します。以下に、軸(重心線)、脳幹、および平衡感覚との関連を説明します。

  1. 軸=重心線: 重心線は、身体の各部分の質量の中心を通る仮想的な直線を指します。この重心線を中心にして身体は均衡を保ちます。直立歩行時、この重心線が足の裏の一点、つまり支点上に保たれることで、身体は安定します。

  2. 脳幹と平衡感覚: 脳幹には、平衡と姿勢を制御するための重要な中枢があります。特に、前庭系は、内耳に位置する平衡器官からの情報を受け取り、これを元にして身体の動きや位置を調整します。脳幹は、この情報と、目や筋肉・関節からの感覚情報を統合して、身体のバランスを維持するための筋肉の動きを調整します。

  3. インナーマッスルと軸: インナーマッスルは、主に身体の中心部に位置する筋肉群で、脊柱を中心にした安定性を提供します。これにより、重心線を適切に維持するためのサポートが行われます。インナーマッスルが弱くなると、身体のバランスが崩れやすくなり、様々な問題が生じる可能性があります。

  4. 潜在運動系: ここでの「潜在」とは、直接的な意識的制御下にない、基本的で本能的な動きや反射を指します。潜在運動系は、動物脳(特に脳幹や中脳)に由来し、緊急時の反応や、身体の基本的なバランスを維持するための動きを制御します。これは、生命を維持するための基本的な機能として進化してきました。この動物脳と、身体を支えるインナーマッスルとの連携によって、人間は効率的で安定した動きを行うことができます。

要するに、脳幹やインナーマッスルが働くことで、人間の身体は重心線を基準にしてバランスを保ちつつ、様々な動作をスムーズに行うことができます。